『会社を辞め、KANIフィルターに注力』

しかしながらその結果は散々なもので、まったく経営陣に受け入れてもらえなかった。実は伊藤社長は若かりし頃メーカー販促員として、大手量販店で三脚セミナーを行った経験がある。そこで、ライバルとなる企業のセミナーも幾度となく立ち合ってきている。

「話の上手い方がそのメーカーにはいらっしゃって、三脚のほかにフィルターやカメラバッグの話など色々紹介されるんですね。そうすると人も集まり、訴求効果も高かった。自分が勤める三脚メーカーは本当に三脚しか扱ってなく、それだけで話が終わってしまう。そのようなこともあり、フィルターを扱うことをしつこく提案したのですが、フィルターは種類が多いので商品管理や在庫のリスクなどが伴うと拒否反応が出てしまったのです」

その後、伊藤社長は中国からミャンマーへの異動を命じられる。ミャンマーでも中国時代と同じく工場で品質管理などの任務に就くことに。そして2年間勤務の後、17年間務めた三脚メーカーを辞め独立することになる。2019年のことである。ただし独立するための準備は少しずつ行っていたのである。

「KANIフィルターを取り扱いたいという想いで独立しましたが、独立直後は専業主婦の妻、4歳、7歳の子供を養えるのかという不安もありました。しかしながら、売りたい製品を情熱も持って、人生をかけて販売していけば、きっとうまくいけると強く思うようにいたしました。会社を辞めた時期にタイミングよくCP+が開催されたのですが、4日間会場内をぐるぐる回って色々探りを入れたのはよい思い出です」と笑う。

三脚メーカーを辞め、独立したころの伊藤公彦社長(右)。左はビジネスパートナーであった成蹊の同級生(ロカユニバーサルデザイン提供)

「広告はSNSが主体。口コミも見方につける」

独立後株式会社を起こし、本格的に業務を開始する。するとたちまち結果が現れてきたのである。

「初年度から手応えを掴みました。ひっきりなしに毎日電話があって、売上も予想以上でした。時期的に東京カメラ部などのサロン調の写真と言うか、HDR調の写真に限界を感じていた写真愛好家も多く、現場での処理が重要だと気付いた点や、欧米ではハーフND、長時間露光の作品が多く、それを取り入れようという方も増えはじめてきており、良いタイミングだったと思います」

そこにはKANIフィルターの品質も大きく影響している。高級なショットガラスを使用しているが、そのなかでも特にグレードの高いものを厳選して使用しており、ガラス自体の基本的な透過率も平均的で極めて高い。さらにコーティングの工程は13回以上施すため、色の偏りやムラがなく、ゴーストやフレアも徹底的に抑えたものとしている。もちろん本来レンズの持つ先鋭度がフィルターを装着したことでアクリル製のように低下することもない。そんなKANIフィルターの特徴が徐々に口コミで伝わっていったのである。

同時に有名写真家にも声をかけ使ってもらうようにした。セミナーや撮影会などでKANIフィルターをアピールでき、ブランドの認知度を高めてくれるからだ。SNSを積極的に運用したことも見逃せない。Facebook、Twitter、Instagram、Youtubeなどで展開を図っている。ちなみに取材時の各SNSの登録者数はFacebookが3000人、Twitter6000人、Instagram8000人、Youtube7000人ほどとしている。加えてインターネット媒体などに対しても積極的に広報活動を行っている。

「出来るだけ写真家などによる広告の力を借りずに、製品そのものの価値で勝負したいという想いが強かったです。広告費を製品に転嫁することを出来るだけ避け、ダイレクト販売で、本物の製品で価格を抑えることで、撮影愛好家であれば良さを分かってもらい、SNSで広まるだろうと思いました。もし、広がらなければ、それは本物でなかったと」と伊藤社長は話す。

円形フィルターも積極的に展開する

『これまでの経験を活かし、販売はECのみで』

販売もECのみとしていることも特徴だろう。量販店などではKANIフィルターは手に入らないのである。

「量販店には置いておりません。三脚メーカーにいた時、量販店に多くの粗利を取られ、結局その商売がプラスになったかと言えば、そうでないことのほうが多かったように思えたからです。そのため、例え売り上げが上がらなくてもダイレクト販売1本にしようと決めました。また、この販売方法のメリットとして顧客情報が自分達で管理できることも大きかったですね」

もちろん実際に手に取ってみたいと思う写真愛好家への対応も伊藤社長は抜かりがなかった。JR吉祥寺駅近くにあるロカユニバーサルデザインの本社にショールームを用意したのである。

「角形フィルターは量販店のスタッフに聞いても分からない場合が少なくない。そのためショールームをつくり、じっくりと触って納得したうえで購入してもらうようにいたしました。ほぼ全てのアイテムが揃っていますし、その場でご購入いただくこともできます」

扱う製品の木目の細かいラインナップもKANIフィルター、引いてはロカデザイン企画の特徴としている。現在では、角形フィルターのほかに一般的な円形フィルターや、二眼レフ用フィルター、ドローン用フィルターなども用意。種類やサイズはこだわりがあるところ。現在のKANIフィルターのアイテム数は1000アイテムに上るとのことだ。

「円形フィルターのホワイトミストは3種類、ブラックミスト(CDF)は5種類用意しています。最近は赤外線効果の楽しめるIRフィルターなども充実させています。サイズに関しては、95mm、105mm、 112mmと他社のやらないサイズのプロテクターフィルターや、CPLフイルターなども用意しております。あと価格もグッと抑えており、あるメーカーさんの112mmのプロテクターが4万円ほどするのですが、同じ性能で私どもでは1万3,000円で出しております」

ソニー銀座でのセミナーの様子(ロカユニバーサルデザイン提供)

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