【コラム】今日の一冊 「『杉並区長日記 地方自治の先駆者 新居格』」 古屋淳二(虹ブックス共同管理人)

Text&Photo:古屋淳二

この前の日曜、地域一斉の草刈りがあった。これは日曜の朝、地域の道路や広場などにびっしりと生えた雑草を刈るために、地域の住民たちが集まってみんなで草刈りをするという、年に2回ほどの奉仕活動(清掃活動の日もある)。こういう公共的なことは市など行政がやるのだとばかり思っていたが、引越してから道路が地域住民たちのボランティアで綺麗になっているのを知って驚いた。

東京に長らく住んでいたときは、正直言って地域のことを考えたことなんかほとんどなかったし、実際にそう言った活動に声がかかったことも一度もなかった(今思えば、草刈りはなくともゴミ掃除関係など何かしらはおそらくあって、ただアパートの住人までは知らされなかっただけだろうと思う)。この地域で、どういう経緯で始まったのかはわからないが、自分たちはもちろん、朝霧高原の道路としてかなりの観光客も通るので、いつも道路がきれいであることはやはり気持ちが良い。そんなときに思い出したのがこの本。

『杉並区長日記 地方自治の先駆者 新居格』虹霓社 2017年刊 

新居格(にい・いたる 1888-1951)は戦前から戦後にかけて評論家や随筆家として活躍した人物なのだが、戦後初めての公選(一般有権者の投票による選挙)で選ばれた杉並区初の区長でもあった。この本はそのときの記録なのだ。新居は戦前から中央線沿線で消費組合活動なども積極的にしていたこともあり(生協の生みの親・賀川豊彦は従兄弟にあたる)、いかに自分たちの手で、自分たちの地域や暮らしを良くしていくかに力を注いでいた人ならではの考えがこの本でも随所に見られる。例えばこの一節。

「天下国家をいうまえに、わたしはまずわたしの住む町を、民主的で文化的な、楽しく住み心地のよい場所につくり上げたい。日本の民主化はまず小地域から、というのがわたしの平生からの主張なのである。」

さらに続く。

「わたしはまず小地域から積みあげてゆくことを望む。まず自分を、そして自分たちの住む部落や村の生活を明るく清く美しく楽しくするには、どうしたらよいか、それを考え究めるところから」

ちょうど杉並区長選挙が6月19日(日)にあるそう。選挙前にぜひ杉並の方々には読んでいただきたいのだが、本書に収録された慶應大学名誉教授・小松隆二氏による新居の小伝タイトルに「〝地方自治・地方行政の鑑〟新居格の生涯と業績」とあるように、これは東京の一つの区だけにとどまらない。小松氏は「新居は国や都道府県よりも、村や区を重視した/市民が実際に生活する村や区が良くならなければ/国も都道府県も、市民の暮らしも良くはならないと考えていた」と書いた。ぜひ「地方」に暮らす方々にも「自治」や「行政」について考えるきっかけとなる本書の一読をオススメしたい。

<付記>
じつはこの書、わたしが出版した本なのです。虹ブックスと並行して小さな出版社・虹霓社も運営しております。なので、これからこの連載でもちょいちょい紹介させていただくつもりです。手前味噌で恐縮ですが、ご容赦のほどよろしくお願いいたします。

この写真は近所ではなく、毎年お手伝いしているダイヤモンド富士で有名な田貫湖での草刈り

古屋淳二(こや じゅんじ)
虹ブックス共同管理人
1972年、群馬県生まれ。東京で業界紙誌のライター、雑貨店経営、編集系制作プロダクションなどを経て独立。東日本大地震と子ども誕生を機に2014年から徳島県神山町で田舎暮らしをはじめる。2017年には朝霧高原に居を移して築50年の古家をリノベして家族5人で暮らす。「虹霓社」として編集・出版業のかたわら、2021年からは私設図書室兼コワーキングスペース「山の読書室/虹ブックス」を夫婦で運営している。


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