官能的な大人のフィルム一眼レフカメラ
Text&Photo:ホトグラ。編集部
フィルム一眼レフとして均整のとれたスタイルの「Minolta XE」。旧メーカーロゴも雰囲気です。発売は1974年、発売開始当時のボディ単体価格は6万9,500円。
「Minolta XE(ミノルXE)」は、1974年に発売された絞り優先AEを搭載するフィルム一眼レフカメラ。クラスとしてはミドルレンジに分類されるものです。写真愛好家の間でよく知られているのは「Leica R3」のベースとなったカメラであることと、官能的とも言える質の高い操作感を誇ることでしょう。
外観はそれまでのSRシリーズをベースとしながらより洗練されたデザインとなります。特にペンタカバーのシェイプは当時としては独特と言ってよい形状で、先の尖ったものにくらべ落ち着いた大人の印象。細かな部分も手が込んでおりスマートで品位あるつくりです。ボディカラーはブラックとシルバーがありますが、特にシルバーカラーのペンタカバーは前面およびその周囲の上面と側面以外の部分をブラックとする“パンダ仕様”で、それまでの国産フィルム一眼レフにない特徴ある雰囲気となっています。いずれにしても独自性の強いデザインは、ある意味ミノルタらしく感じられるものです。
旧ロゴが印象的なペンタカバー前面。正面の小さな四角の窓はシャッタースピードをファインダー内に表示させるためのもの。
ダイヤルやレバー類のレイアウトなどについては奇をてらうところは少なく、金属ボディのMFフィルム一眼レフとして好感の持てるもの。初見でも操作に戸惑うようなことはないように思えます。唯一と言えるのが電源ON/OFFスイッチの位置。カメラ背面の右上と珍しいところに設置されています。操作感は今一つですが、カメラを構えようとすると電源の状態も同時に分かるのは便利。ある意味考えられた位置と述べてよいでしょう。XEと言えばシャッターボタンと巻き上げレバーのフィーリングがよいとプロのレビュアーなどが書くことが多く、それも注目される部分となっています。
シャッターボタンに関しては、この時代の他のフィルム一眼レフ同様若干ストロークの深いものとなります。押してみるとシャッターが切れる直前に動きがちょっと重くなり、そこからさらにぐっと押し込むとシャッターが切れます。現代の反応のよいシャッターボタンとはちょっと異なるものです。シャッター音自体は心地よく写真を撮る気にさせるもの。驚くほどの音量だったり甲高く耳障りなものではなく、金属製のフィルム一眼レフとして節度あるものです。ちなみにシャッター機構はミノルタとライカ、そしてコパルの共同開発と言われる電子制御式縦走りフォーカルプレーンシャッターとなります。
AUTOの設定は、低速側へシャッターダイヤルを回して行います。高速側にAUTOがあったほうが、通常の場合素早く設定ができそうですが。
設定可能なフィルム感度はISO12〜ISO3200。当時としては一般的な設定範囲です。露出補正機能も備えています。
フィルムの巻き上げについては、巻き上げレバーの予備角は約30°と大きく、さらにそこからの巻き上げ角度は約130°となります。巻き上げ時のゴリゴリ感は極めて小さく、スムーズ。この感触が過去のレビュー記事など見ると一般によいとされている所以と思われます。しかしながら、残念なのは小刻み巻き上げに対応していないこと。当時このクラスでも小刻み巻き上げが可能なカメラは「Canon FTb」などありますし、小刻みにフィルムを巻き上げたほうが指の動きは小さくて済み、感覚的にも巻き上げが素早く感じるなど操作感もつくりもワンランク上のように思えてなりません。ちょっと残念に思えるところです。
フィルム巻き上げレバーの予備角は大きい部類に入ります。小刻み巻き上げを可能としていたらフィルム巻き上げの感触はもっとよかったことと思います。
高級機の証と言うべくアイピースシャッターを備えていることも注目点と言えます。ちなみにアイピースシャッターは、アイピース側から光が入り正確な露出が得られなくなることを防ぐ機能。三脚にカメラをセットし、アイピースから目を離してAE撮影を行う時などに使用します。
露出モードはマニュアルのほか絞り優先AEを搭載。カメラを横位置に構えたとき、2個のCdSで画面の上下それぞれを測光するミノルタ独自の「CLC」を搭載しています。これは風景などの場合、空の明るさに露出が影響され地上がアンダーになることを防ぐもので、今では一般的となった分割測光の先駆けといえるものです。露出補正は最大±2EVを可能としています。
ファインダースクリーンは当時としては明るく、ピントを合わせることが楽しくなるのもXEの特徴。ファインダーにはスプリットマイクロプリズムを採用しているため、正確なピント合わせも容易です。露出表示については、設定した絞り値と同じく設定したシャッター速度の表示がファインダー上部に、メーター指針式で内蔵する露出計が示すシャッター速度の表示がファインダー右に備わります。マニュアル露出の際シャッタースピードの表示が上にも横にもあるため最初少し戸惑うことがあるかもしれませんが、絞り優先AEに設定した場合ファインダー上部のシャッタースピード表示が「A」に切り換わるためパッと見確認しやすくなります。絞り優先AEで使うことを前提した露出表示と述べてよいでしょう。
ファインダーの表示。左側がマニュアル露出時、右側が絞り優先AE時の画面となります。ファインダー視野率94%、ファインダー倍率0.84倍となります。
ON/OFFスイッチとフィルムカウンターはカメラ背面、巻き上げレバーの下に置かれます。フィルムカウンター上のオレンジの表示はフィルムシグナルと言われるもので、フィルムをカメラに装填すると現れ、巻き上げ・巻き戻しが正常に作動していることを確認できます。
ネットなどで検索すると電気系が弱いとか、巻き上げが故障しやすいなどの書き込みを見かけます。50年近く前に発売されたカメラですので、不具合が発生しやすくなっているものと思われます。また、そのような理由からだと多いますが、近年は中古市場でも以前より見かける機会が少なくなってきているようです。しかしながら、今見てもフィルム一眼レフとして完成度は高く、外観のデザインや操作感など含め当時のミノルタの高い技術力を伺い知ることのできるカメラのように思えます。少しでも気になったなら、中古カメラショップなどで一度手に取ってみることをオススメします。このカメラの虜になるかもしれません。
(了)
シンクロ接点はストロボ用のX接点とフラッシュキューブ(閃光電球)用のFP接点に切り換えることができます。ちょっと時代を感じさせる部分です。
メモホルダーの採用は、クラスとしては早い部類となります。通常の使い方は上の写真のようにカメラに装填しているフィルムのパッケージを切って入れることの多いものでした。
ファインダーにはスプリットマイクロプリズムを配置するため正確なピント合わせも容易。マット面に関しては、ピントの山の掴みやすさなど一般的なレベルです。
XE・MC ROKKOR-PG 50mm F1.4・フジカラー100
XEの明るいファインダーはより写真を撮る気にさせるものです。官能的な操作性とともに一眼レフで撮る楽しさを心底味わえるカメラと述べてよいでしょう。
XE・MC ROKKOR-PG 50mm F1.4・フジカラー100
当時のAE機のほぼ全てがそうであったように、本機も露出補正はカメラを構えたままだとちょっと難しい。ただし、カラーネガフィルムを使った撮影だと露出補正を使う機会は少なかったのかもしれません。
XE・MC ROKKOR-PG 50mm F1.4・フジカラー100
絞り優先AEで撮影しています。絞りは開放F1.4。ボケの様子をチェックしながらアングルを決めシャッターを切りました。
XE・MC ROKKOR-PG 50mm F1.4・フジカラー100
今回は絞りAEで撮影しています。このカメラが発売された当時、シャッター優先AEと絞り優先AE、どちらがよいのか写真愛好かの間で話題となることが多かったと記憶しています。
XE・MC ROKKOR-PG 50mm F1.4・フジカラー100
この時代の一眼レフのシャッターストロークは現代のものにくらべ長い場合がほとんど。XEも例外ではなく、シャッターチャンスを見逃さないためには少し慣れを必要とするかもしれません。
XE・MC W.ROKKOR-SG 28mm F3.5・フジカラー100
MF時代のフィルム一眼レフとしてベーシックなつくりでとても使いやすく思えるカメラです。このカメラを製造した企業はその後同じカメラメーカーと合併しましたが、祖業のカメラ製造を止めてしまったことはたいへん惜しまれます。
XE・MC W.ROKKOR-SG 28mm F3.5・フジカラー100
<仕様表>
Minolta XE | |
カメラタイプ | 電子自動露出制御式35mm一眼レフカメラ |
画面サイズ | 24×36mm |
レンズマウント | ミノルタMCマウント |
ファインダー視野率 | 94% |
ファインダー倍率 | 0.84(f=50mm∞) |
測光方式 | 開放測光TTL/分割測光 |
自動露出範囲 | EV1〜EV17(ISO100、F1.2レンズ) |
フィルム感度範囲 | ASA12〜ASA3200 |
シャッター | 電子制御式メタルフォーカルプレーンシャッター |
シャッタースピード | オート:4秒〜1/1000秒(無段階) |
マニュアル:4秒〜1/1000秒(1EVステップ) | |
露出補正 | 基準値に対して±2EV補正可能 |
フィルム巻き上げ | 一作動レバー巻き上げ巻き上げ角130°予備角30° |
電池 | 銀電池1.5V(JIS G-13)2個 |
大きさ | 148×97×61mm(幅×高さ×奥行き) |
質量 | 775g(ボディのみ) |