【コラム】今日の一冊 「soil mag.  /Vol.1 特集〝耕す暮らし〟の創りかた」 古屋淳二(虹ブックス共同管理人)

Text&Photo:古屋淳二

田舎暮らしをするとみんなしたくなることがある。それは、田んぼと畑だ。かくいうわたしも移住してから畑をやりはじめたくちだ。とはいえ、野菜づくりはそんな簡単に行くわけではなく(いや、みんな上手くやってるから、わたしがただほったらかしすぎるのかもだが)、毎シーズン上手くできるのはじゃがいもくらいであろうか。

そもそも、畑をやろうと思っても、畝の作り方からしてわからなかった。神山町に越したころ、近所に農協などにも出荷している〝プロ〟のよしこさんというおばちゃんがいた(聞けば退職後に畑をはじめたそう)。ホームセンターで買ってきた鍬をへっぴり腰で耕しているわたしをみて、しようがないなあという顔で教えてくれたのが最初で、それから何かあると教えてくれるようになり、わたしもわからないことがあると聞くようになった。「苗を植えるタイミング」「水撒きが必要か」「タネの取り方」などなど。だから、畝はよしこさんが畝づくりをする後ろからみながら学んだのだ。

畑作業を手伝う私の息子と娘。

昨今の〝移住ブーム〟で移住をテーマにした雑誌やウェブマガジン、特集記事などをよく見かける。それらはたいてい華やかで、家族で田舎暮らしを満喫してます、田舎でこんなに活躍してます的なキラキラしたイメージの内容が多いように思う。実際の田舎暮らしはもっと泥臭くて地道。だから、将来的な移住を想像するときにはいいかもしれないが、実際に移住したらたぶん読み返すことはないし、そもそも記事自体も読み返されることを期待していない。その時に読まれればいいとばかりに。

ところがである。今回紹介する雑誌『soil mag.』は一味違う。雑誌を作っているご夫婦(編集長とプロデューサー)が東京から奥多摩への移住組で、東京のクリエイティブな世界で活躍してたそうなので、デザインが秀逸なのはもちろん、実際の移住者かつ地域に根を張って暮らしている(あくまでわたしの想像)からこそ、かなり「実践的」な雑誌になっている。

soil mag. Vol.1 〝耕す暮らし〟の創りかた 2021年10月14日発行 soil mag. 編集部

どのくらい実践的かというと、目次をみれば

「〝カスタマイズ自給菜園〟入門」
「有機栽培、自然栽培、自然農法、自然農 その違いと意義」
「生産と消費のサイクルを生むコンポスト考察」
「耕す暮らしを叶える、農地と住居のイロハ」

などなどだ。

今号の特集のサブタイトルが「自分らしく紡ぐ、農的暮らしと自給自足のヒント」とあるように、例えば「〝カスタマイズ自給菜園〟入門」には、畝づくりや作付け計画まで掲載されている。おしゃれな移住系雑誌に作付け計画が掲載されたことが今まであろうか(あったらスミマセン)。移住後に読めば「実践的」に使えるだろうし、移住前に読んでも、かなり田舎暮らしのイメージが具体的でリアルに想像できる。たぶん読者はこの雑誌のバックナンバーを並べて、その後の号が出てもいつだって読み返すことになるはずだ。内容の濃さはもとより、この雑誌と共に田舎暮らしを楽しみたい、そんな気にさせる。次号の特集が何になるか、今から楽しみだ。

古屋淳二(こや じゅんじ)
虹ブックス共同管理人
1972年、群馬県生まれ。東京で業界紙誌のライター、雑貨店経営、編集系制作プロダクションなどを経て独立。東日本大地震と子ども誕生を機に2014年から徳島県神山町で田舎暮らしをはじめる。2017年には朝霧高原に居を移して築50年の古家をリノベして家族5人で暮らす。「虹霓社」として編集・出版業のかたわら、2021年からは私設図書室兼コワーキングスペース「山の読書室/虹ブックス」を夫婦で運営している。


虹ブックス
Twitter:https://twitter.com/niji_books

虹霓社
http://kougeisha.net/

おすすめの記事