第1回:Auto-Takumar 55mmF1.8のジャンクを味わう
Text&Photo:ジャンキー坂井
前玉側から見た今回見つけてきたジャンクのタクマーレンズ。一応前玉は軽く清掃しているが、全体的にホコリっぽい
この2、3年、ペンタックスの古いタクマーレンズがスゴい人気だ。M42マウント、あるいはプラクチカマウントと呼ばれるスクリューマウントのものだけど、タマ数が多く比較的手に入れやすいのと、古いレンズらしい写りが得られるので、ミラーレスに付け、絞り開放で“ユルい写り”を楽しむのがトレンドの一つとなっているらしい。
そんなタクマーレンズの中古市場の価格として、以前は今回ピックアップしたような開放F1.8の極普通の標準レンズであれば1,000円札1、2枚ほどでそこそこ程度のいいものが買えたように記憶しているけど、今ではその人気の高さから1万円近くするものも珍しくもなんともない。いや〜何かスゴい状況である。
そんなことを思っていた矢先、出会ってしまったのである。都内某所の某中古カメラ店のジャンク箱のなかで転がっていた「Auto-Takumar 55mmF1.8」を。しかもたった300円の値札を付けて。
後玉側から見た状態。こちらも後玉は軽くホコリを取り払っているが、やはりどことなく汚い
カッコいい言葉で言うと“サルベージ”したのは、オートタクマーのなかでも自動絞りのもので(同シリーズには半自動絞りというのもあるらしい)、いろいろ調べてみると、おそらく1950年代の終わり頃から1960年代の初めにつくられたもののよう。
ジャンクとして売っている以上当然なんらかの問題を抱えているわけだけど、その場でいろいろいじってみると鏡筒のガタつき、絞り羽根の動きの渋さ、外観のキズやスレの多さぐらいで、フォーカスリングの動きなどいたって滑らか。肝心かなめのレンズの状態はと言うと、パッと見そう悪くない。もちろん前ダマには小さなキズがいくつかあるいし、内部はホコリっぽいけど、奇跡的にカビの発生は見当たらない(あるのかもしれないけど、見つけきれなかったと言ったほうがいいかも)。
これは自分でチャチャっと整備して使えそうだと思い、すぐにレジまでいそいそと向かったことは言うまでもない。
クリーニングによりスカッと抜けた感じになったレンズ。外装の汚れは相変わらずのままだが
自宅に持ち帰ると早速シコシコとクリーニング。正直300円のジャンクレンズに諭吉1、2枚が飛ぶようなオーバーホールを頼むのは難しい。結局のところ、ジャンクレンズはよほどのものでない限り自分でクリーニングするしかないが、実はそれはそれで楽しい作業なのである。
ちなみにタクマーレンズのいいところは、ちょっとしたレンズの構造に対する知識と道具があれば簡単にバラせるし、素人でも精度の高い組み込みができてしまうこと。分解の方法など多数ネットに上がっているのも強みだ。本レンズも自分で元に戻せる範囲内でバラしを行い、レンズや絞り羽根などクリーニングして組み直したら、外観はともかくとして、タマの状態や絞り羽根の動きなどとても300円とは思えないものになったのである。
前後のレンズキャップを付けた状態。距離指標の形状や、絞りリングに記された絞り値の並びの向きが、その後に登場したタクマーレンズとは異なっている。
テンバイヤーならここでネットオークションに出すんだろうけど、自分はそんなことせずにまずは試し撮り。順光で絞りF8ぐらいなら、お〜〜ジャンクレンズとは言えない素晴らしい描写! 全然問題なく使える。タクマーレンズを買った多くが絞り開放で使うという話から、今度はそれを意識して撮影してみると、サジタルコマフレアの影響と思われる像の滲みによるまとわり付くようなねっとりとしたボケ味が楽しめる。これが、ちょっと大袈裟に述べれば、現代に於けるこのレンズの魅力となっているのかしらん。知らんけど。
逆光でのボヤボヤな写りも、このレンズの“味”と言えるもの。その写りを見るたびに安い買い物だったと思うことしきりで、これだからジャンク漁りは止められない。最後にこのレンズを大事に使うことを考え、中古のレンズフロントキャップとレンズリアキャップを買ったけど(ジャンクのレンズには前後のキャップが付いていない場合がほとんど)、そっちのほうがレンズの値段より高かった・・・
EOS RPにマウントアダプターを介して装着したAuto-Takumar 55mmF1.8。この写真は、編集部が撮影してくれた
サジタルコマフレアによる像の滲みなど古いレンズならではと言ったところ。絞りは開放F1.8
EOS RP・Auto-Takumar 55mmF1.8・絞りF1.8・1/2500秒・ISO100・WBオート・JPEG
どことなく二線ボケだったりして、正直に言えばあまりボケは美しくないけど、これが味なのか
EOS RP・Auto-Takumar 55mmF1.8・絞りF1.8・1/400秒・ISO100・WBオート・JPEG
もろ逆光だけど、この写真は不思議とボヤボヤな感じはしない。虹のようなゴーストが発生している
EOS RP・Auto-Takumar 55mmF1.8・絞りF1.8・1/3200秒・ISO100・WBオート・JPEG
わずかにグルグルボケであることがわかる。サジタルコマフレア同様非点収差も古いレンズは発生することが多い
EOS RP・Auto-Takumar 55mmF1.8・絞りF1.8・1/200秒・ISO100・WBオート・JPEG
焼肉用のアミ? ハイライトの部分を見ると滲みがいい感じ。現代のレンズでは、決して味わえない写り
EOS RP・Auto-Takumar 55mmF1.8・絞りF1.8・1/1000秒・ISO100・WBオート・JPEG
さすが銀座。止まっているクルマも違う。いい感じで光が当てっていたのでシャッターを切った
EOS RP・Auto-Takumar 55mmF1.8・絞りF1.8・1/2500秒・ISO100・WBオート・JPEG
有名すぎるバーの看板に太陽の光がダイレクトに当たる。順光でコントラストの高い被写体では、絞り開放でも古いレンズらしい写りはあまり期待できないかも
EOS RP・Auto-Takumar 55mmF1.8・絞りF1.8・1/1000秒・ISO100・WBオート・JPEG
光の条件がよかったようで、思いのほか立体感ある写りとなった。ホントは綺麗とは言い難い被写体
EOS RP・Auto-Takumar 55mmF1.8・絞りF1.8・1/60秒・ISO125・WBオート・JPEG
点光源が多くて思わずカメラを向けたシーン。なかなか雰囲気ある写真が撮れました
EOS RP・Auto-Takumar 55mmF1.8・絞りF1.8・1/125秒・ISO125・WBオート・JPEG
ジャンキー坂井(じゃんきーさかい)
ジャンクのカメラやレンズをこよなく愛する某団体職員。モットーはできるだけ安く手に入れ、できるだけ使えるようにし、できるだけ使うこと。そのためジャンクを扱うカメラショップは日夜チェックを欠かさない。もっかライバルはテンバイヤー。
カメラ・レンズ等を分解、修理、清掃、組立て等を行うときは自己責任でお願いいたします。それらの作業等において発生するトラブルや不具合、故障等に関しまして、ホトグラ。編集部およびジャンキー坂井は一切の責任を負いません。