真四角写真が楽しめる小粋でカワイイ35mmカメラ
Text&Photo:ホトグラ。編集部
ZEISS IKON が1939年に発売したTENAX。コンパクトなボディと愛嬌あるルックスであることに加え、真四角写真が撮れることが特徴となります。中古カメラ店などでの販売価格は完動品で1万円から2万円ほどが相場のよう。
「TENAX(テナックス)」は、ドイツ・ZEISS IKON(ツァイスイコン)が今から80年以上前の1939年に発売したフィルムカメラです。このカメラの特徴と言えば撮影フォーマットがスクエア、つまり真四角写真であることでしょう。ブローニーフィルム(120フィルム)を使う中判カメラではスクエアフォーマットは珍しくありませんし、ボルタ判と言われるフィルムを使うカメラでも真四角写真を撮ることができますが、TENAXは35mmフィルム(135フィルム)を使う珍しいカメラです。ちなみに国産では「マミヤスケッチ」が35mmフィルムを使う真四角写真カメラとしてマニアの間ではよく知られています。
フォーマットサイズは24×24mm。一般的な36×24mm のフォーマットで36枚撮れる35mmフィルムを使用すると54枚撮ることができ、18×24mmもしくは17×24mmのハーフサイズ同様経済的でお財布に優しいと言えます。ちなみに、本モデルが発売された1939年はちょうど第二次世界大戦が始まった年。その頃のドイツは第一次世界大戦の敗戦国として多額の負債を抱えるなど、市民の経済状況はよくなかったと聞きます。35mmフィルムを少しでも効率よく使うためこのフォーマットが採用されたのかもしれません。
裏蓋は底部とともに外れるタイプとなります。いわゆるマスクの部分を見るとスクエアフォーマットであることが分かります。巻き上げ用のスプールは取り外しが可能ですが、無くさないよう注意が必要です。
このフォーマットはボディの小型化にも貢献しています。総金属製であるため重量感はそれなりにありますが、横幅は35mmフィルムを使用するカメラとしては小さく、掌にすっぽり収まってしまうほどのサイズを実現。ファインダーも折り畳み式で、持ち運びに邪魔になるようなことがありません。ウエアラブルな35mmフィルムカメラ、そう言ってよいでしょう。
折り畳み式のファインダーを採用。掲載した写真は接眼部から見た様子です。もちろんファインダーの画面表示も真四角です。
フィルムの巻き上げもユニークで特徴的です。レンズの根本から上に突き出したレバーを下方向に押し込むとフィルムが巻き上がります。両手でカメラを構えたとき、ちょうど左人差し指をそのレバーの上に置け速やかな操作が可能。カメラを手にすると空シャッターをつい切ってしまうほど楽しく思えるものです。ただし、それはフィルムを装填するとちょっと裏切られたような気持ちに。途端にレバーの操作が重くなり、フィルムが途中で切れてしまうのではないかと思えるほど力が必要になるからです。古い時代のカメラですので、あまりユーザービリティは考えていなかったのかもしれません。
フィルム巻き上げレバーが招き猫の手のような形をしていることでも知られています。レバー先端は持ち運びを考慮して、反対方向に折り曲げることが可能です。
装着するレンズの焦点距離は35mm。スナップや記念写真などでは使いやすい画角となります。ただし、ピント合わせはカメラから被写体までの距離を目分量で調整する目測式ですし、露出計も備えていません。そのため撮影に関してビギナーにはちょっとハードルが高く思えるところです。また、最高シャッター速度にしても1/250秒と現代の尺度からすれば物足りなく感じます。しかしながら、小さいボディにカメラとしての最低限の機能をギュッと詰め込んだ凝縮感は、スクエアフォーマットの写真が楽しめることと同様とても魅力的に思えてなりません。
鏡筒外周向かって右がフィルム巻き上げレバー、左側がシャッターレバー。ZEISSとIKONの文字の間がシャッター速度の表示窓となります。ピントは目測式のため被写界深度を示すための絞りと距離が細かく表示されています。
絞りの設定はレンズ先端を回して行います。鏡筒外周向かって左下はシャッターチャージ用のレバーとなります。搭載するレンズは写真のNOVAR-ANASTIGMAT 35mm F3,5のほか、ちょっと明るいTESSAR 35mmF2,8を採用するモデルもあります。
「TENAX」は、中古カメラ店などでも見かけることの少ないカメラですし、あっても不具合がある場合が多いようです。実際、今回紹介した個体もシャッター機構周辺は問題ないもののレンズが曇っており、掲載した作例のとおり鮮明な写真は得られませんでした。しかし、35mmフィルムを使う数少ない真四角写真カメラのひとつとして記憶に留めておくとよいかと思います。
(了)
画面の真ん中に被写体を置いても絵になりやすいのが真四角写真の特徴のひとつ。撮影で使用した個体はレンズが曇っており、あまり鮮明な写りでないのが惜しまれます。
ZEISS IKON /TENAX・ILFORD FP4 PLUS
ピント合わせは目測ですが、被写界深度を考慮して絞り値とピント位置を決めるとさほど迷わずにすみます。シャッター音は静かでスナップ撮影向きと述べてよいでしょう。
ZEISS IKON /TENAX・ILFORD FP4 PLUS
裏蓋の装着状態が悪かったため他の作例も含め光線漏れが見受けられますが、それも古いカメラの味わいのひとつとして考え楽しみたいところです。
ZEISS IKON /TENAX・ILFORD FP4 PLUS
真四角写真は画面のどこに被写体があっても比較的絵になりやすいのも特徴。そういった意味では、瞬時に構図を決めなければならないスナップ撮影に適したカメラと言えます。
ZEISS IKON /TENAX・ILFORD FP4 PLUS
フィルムの巻き上げはユニークな方式ながら、その操作の重さはちょっと残念。しかしながらコンパクトで写すのが楽しいま四角写真カメラです。
ZEISS IKON /TENAX・ILFORD FP4 PLUS
<仕様表> | |
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ZEISS IKON/TENAX仕様表 | |
メーカー/ブランド | ZEISS IKON(ドイツ) |
形式 | 35mmコンパクトカメラ |
使用フィルム | 35mmフィルム |
撮影フォーマット | 24×24mm |
搭載レンズ | NOVAR-ANASTIGMAT 35mm F3,5 |
ピント調整 | 目測式 |
最短撮影距離 | 0.9m |
シャッター機構 | レンズシャッター |
最高シャッター速度 | 1/250秒 |
フィルム巻き上げ | レバー式 |
大きさ(実測値) | 約108(幅)×96(高さ)×48(奥行き)mm |
質量(実測値) | 約399g |
製造初年 | 1939年 |